My Favorite Music : World

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Juanjo Dominguez: Plays Astor Piazzolla

Juanjo Dominguez (g)

 ギターを製作するようになって、以前よりもナイロン弦を用いたクラシックやフラメンコの演奏を聴くようになった。同じような外見でも自分が作るスティール弦ギターとは内部の構造も違い、音作りのアプローチも異なる。ナイロン弦は特性上、ふくよかな低音は出しやすいがピンっと通る高音を出すのが難しい。一方、スティール弦ではキンとした高音は出しやすい一方、豊かな響きの低音を出すのが大変でここが製作家の腕の見せ所となる。いずれにしても、「いい楽器」というのは低音から高音までバランス(音量だけではなく)が取れているものなのである。まったく別方向からのアプローチを持つ同じ「ギター」を見つめることで、それまでの自分の考え方から一歩離れてモノを理解するきっかけとなる。

 ここのところ、一番のヘビーローテーションでかけているのが本作。ナイロン弦ギターで、「ピンっ」と音が立っている好例である。ファンホ・ドミンゲスはアルゼンチンのギタリスト。クラシックに分類するのがいいのかもしれないが、ピアソラ曲集ということもあり今回はワールド・ミュージックにカテゴライズした。

 ピアソラの曲はクラシックやジャズのプレイヤーがよく取り上げ、名演も多い。その中においてもファンホのこの作品の仕上がりは特筆すべきものだ。同じアルゼンチン人としてピアソラが何を考え、感じて曲を書いたのかということを意識しながらギター曲にアレンジしたという。タンゴ五重奏団でバンドネオンやヴァイオリンが繰り広げていたスリリングな演奏パートまでもギターの音だけで表現し、単調さなどまったく感じさせず恐ろしいばかりの緊張感を最初から最後まで持ち続けている。
 音の立ち上がりとスピード感が全面に出た演奏はまさしくナイロン弦の持ち味を最大限活かしたもので、これほどピタリとはまる感覚も珍しい。曲によってはギターを2本、3本と多重録音しているが、自分の演奏を重ねたからこそ違和感なくしっくりくるものになっているのであろう。

 音数も多いので音楽が「饒舌すぎるのでは」と心配してしまいそうだが、それも杞憂に過ぎないとすぐに気付く。すばらしい演奏テクニックに余りある歌心が、その音にはある。アルゼンチン人にとってタンゴ音楽、そしてピアソラの音楽がどのようなものなのかを、ファンホのギターがわれわれに投げかけている。

posted on 2006/04/16 12:04

revised on 2011/07/22