●Crosby, Stills, Nash & Young: 4 Way Street
David Crosby (vo. g)
Graham Nash (vo. g)
Stephen Stills (vo, g)
Neil Young (vo. g)
Johnny Barbata (ds)
Calvin Samuels (b)
中学1-2年の頃、東京の浜松町にある世界貿易センタービルまでヤマハのギター教室に通っていたことがあった。グループレッスンだったが、たいていの人は長続きせず、気がつくと私一人という感じで、その分、たくさんのことを教えてもらえてよかった。それまでは、日本のフォークを中心に聴いていた私に、海外のすばらしい音楽を押して得てくれたのが、このときの講師の人だった。確か、小泉さんというひとで、教室で教えている以外にもヤマハ関連のイベントでサポートギタリストとして活躍していたと記憶している。その小泉先生が「このギターはかっこいいぞ!」と教えてくれたのが、クロスビー・スティルス・ナッシュ・アンド・ヤング(CSN&Y)だった。中でもお勧めは『組曲:青い眼のジュディ』という曲だということだったので、お小遣いをためてレコード屋に足を運び、探してみるとこの曲が入っているアルバムが2枚。片方はLP1枚で2,500円。本作は2枚組みで4,000円。「当然こちらの方がコストパフォーマンスが高い」と思って購入したまではよかった。
さて、冒頭が先生お勧めの曲だったので、気合を入れて聞いてみると、コーラス部分がフェードインで始まると、すぐにワァーっという歓声とともに終わってしまった。「えっ」と動揺しながらジャケットをよくよく見ると、「組曲:青い眼のジュディ(0:33)」とある。もともとスティルスが普通の長さの1曲に治めることができなかったので「組曲」という構成にした長い曲である(ちなみに「ジュディ」とは当時同棲をしていたジュディ・コリンズのことだといわれている)。その曲の終わりのほんの一部をライブアルバムの雰囲気作りで使っていただけだったのだ。肝心のかっこいいギターの部分は聴けずじまいで、アルバムの選択ミスを後悔をしつつも聴き進んでいくことにした。お目当ての曲はともかく、他の曲はどれもギターはかっこよく、ハモリも今まで聞いたことがない新鮮なもので、気がつくと、グイグイとCSN&Yの世界に引き込まれていった。
元バーズのクロスビー、ホリーズを脱退してイギリスから参加したナッシュ、そして元バッファロースプリングフィールドのスティルスとヤングが組み合わさったユニットは、斬新なギタープレイと複雑なコーラスが特徴。
普通にギターをチューニングすると、左手でどこも押さえずに(「開放で」と表現する)すべての弦を鳴らしても、調整の取れた和音にはなっていない。チューニングを変えて、開放である和音がなるようにするのがオープン・チューニングである。スティルスはこのオープン・チューニングの名手で、自分だけの独特のパターンをよく使っていた。このため、今まで聴いたことのないようなギターの音となっていたのである。中学1年のときに買った安いヤマキのギターでも、オープン・チューニングにすると気分はもうスティルス。その音に飽きるまで弾き続けていたことはいうまでもない。
ハモリも、一般的なのは3度のハーモニーだが、4度を多用して、長調なのか短調なのかを表に出さず、浮遊感のある和音構成がこれまたユニーク。ハーモニーの和音だけで、「あっ、CSN&Yだ」とわかるほどだ。
個性の強いメンバーが集まれば当然衝突も多かったようで、DVDになっている映像には、マリファナでボーとしながらハンモックに揺られているクロスビーに向って、「いいかげんにしろよっ!」と切れるスティルスの姿を見ることもできる。スティルスはスティルスでヤングとは仲が悪く、ツアーの途中で喧嘩が絶えず、後半のツアーキャンセルということも結構あったようだ。その割りには、機会があるたびにともに演奏をし続け、CSN&Y以降でも、スティルス・ヤング・バンドとしての活動などもおこなった。ライブ映像でも、4人で一つのユニットというよりは、曲によって一人でやったり、二人、三人と編成を変えて演奏している。
本CDはLP同様2枚組みで、一枚目がアコースティック、二枚目がエレクトリックという構成。しかし、アコースティック盤には、新たに4曲追加されているのが嬉しい。ライブでは必ずアンコールの最後にやっていたという"Find The Cost of Freedom"は当然一番最後(二枚目のオーラス)に収録されている。ギター2本がかっこよく絡むインストパートから始まり、ユニゾンでのワンコーラス目の途中からギターの音が消えて、完全なアカペラとなる。ツーコーラス目は3声のハモリ。突然、音空間が上下に広がる快感。パッとコーラスが終わり、(おそらく)ナッシュが”Good Night"といってコンサートは終わりを迎える。
自分にとってのウエストコースト・サウンドの原点はこの辺りにあるのだろう。