●Donovan: Live in Japan
Donovan (vo. g)
ドノヴァンが、何よりも強く印象に残っていたのは、不思議なギターを持っていたからだ。このアルバムのジャケットでわかるように、サウンドホールは三日月型、真っ黒なボディに星がちりばめられたデザイン。一度見たら忘れられないものだ。
クラシック・ギターの世界では、いわゆる手工品と呼ばれる個人製作家ものがハイエンドのギターとして、普通に存在しているが、不思議とスティール弦では、個人製作家のものは見当たらず、楽器として評価が高かったのは、一部のメーカーのものだった。その中で、唯一、個人製作家として評価されていたのが、ドノヴァンのこの楽器などを製作した、イギリスのトニー・ゼマティスである。彼は、エレキ、アコースティック・ギターの両方を製作し、60年代半ばからギター製作家としての評価が高まり、イギリスのミュージシャンを中心に、彼の楽器を愛用するプロのプレイヤーが増えていった。デザインも含め、非常にユニークなギターで、今でもワンオフものとして市場での価値も高い。
このweblogで紹介するものは、普段工房でかけている音源からというのが原則だが、このアルバムは、残念なことにCD化がされていない。それどころか、LPでリリースされたのも日本国内だけという、貴重なもののようだ。1972年の東京と大阪での公演から選曲されているが、ギター一本でヴォーカルとハーモニカのみ。とてもシンプルなサウンドである。曲によっては、ケルト音楽の影響が強く出ているものもある。時として、ディランのようにメッセージ性の強い歌詞もあるが、決して怒鳴るように訴えるのではなく、あくまでもきれいなメロディに載せて、切々と歌いかけてくる。ギターの演奏面でも、オープン・ハイ・コードと呼ばれる、開放弦とハイポジションを混ぜた音使いなどが時折あり、透明感のある歌声に実によくマッチしている。
70年代の後半頃から、だんだんと表に出ての活動が少なくなり、ほとんど活動休止状態になっていたが、1996年には久しぶりのアコースティック・スタイルの新作『Sutras』を発表。その後も、リリースの間隔は長いものの、コンスタントの活動をしているようである。
今年に入ってから、Try for the Sun: The Journey of Donovanという集大成的なCD3枚+DVDというボックスセットが発売されたり、5月には昔のライブ盤がリリース予定など、嬉しい動きもある。英国BBC放送では、今年の2月から3月にかけて、FOLK BRITANNIA SEASONというシリーズ番組で、1972年のライブ映像を放映している。貴重な映像の数々をアーカイブに持っているBBCならではだが、日本でもぜひ放送してもらいたいものだ。