●Egberto Gismonti: Infancia
これまでに見たライブのうち、3本の指に入るほどすごかったのが、1991年6月、ブルーノート東京で見たエグベルト・ジスモンティのライブだった。80年代には来日ソロコンサートもおこなっていたジスモンティだが、雑誌のインタビューによると、日本にはいい印象が無く、来日はしたくないという話しが伝わっていた。そんな中、本作をリリースした直後に、同じ編成の4人(まったく同一メンバーだったかどうかは覚えていない)で、コンサートホールではなく、小さなスペースでのライブ。彼の演奏を間近に見ることができたのは、本当にラッキーだった。ギターのソロ、ピアノソロ、4人でのアンサンブルなど、とてもバラエティに富んだ内容だったが、特に愛用の10弦ギターを弾いているときの、すさまじいばかりの集中力と、ひしひしと伝わってくる緊張感は忘れがたいものだった。前から2番目くらいの席で、ステージ上のジスモンティをわずかに見上げるような位置から見ていたのだが、やや逆光気味の照明に、飛び散る汗がキラキラと見えた。聴くものに息をすることすら許さない、といわんばかりの迫力だった。
ギター製作のためにアメリカに渡ったとき、たまたまサンフランシスコのホールでジスモンティのコンサートがあった。まだ、向こうに着いたばかりで自分の車も無く、友達に頼んで移動をするような状況だったし、「さすが、サンフランシスコ。ジスモンティのライブもしょっちゅうあるんだ。」と勝手に思い込み、次の機会でいいやと、行かずにいた。もちろん、彼のコンサートは頻繁にあるわけではなく、結局、アメリカ滞在中に、彼の演奏を見るチャンスには恵まれなかった。
ジスモンティの名前を初めて聞いたのは、「Frevo」という曲の作曲者としてであった。スーパー・ギター・トリオのライブでは、マクラフリンとパコのデュオで必ずといってよいほど演奏された曲だが、とても美しいメロディラインが印象的で、最も好きな曲のひとつだ。この曲をたどりつつ、ジスモンティの作品をどんどんと聴き始め、気がつくと、彼の音楽にどっぷりと首まで浸かるような状態になってしまった。ブラジル出身の彼は、幼い頃からクラシック・ピアノを習い、その後、パリに渡り、管弦楽法と作曲を勉強したという。ブラジルの伝統的な音楽をベースとしつつも、西洋の音楽手法を融合させ、独自の音楽を築いていく。
クラシック、ジャズそしてブラジルの伝統音楽のショーロやサンバ、ボサノバ。さまざまな要素が見え隠れするジスモンティの曲は、クラシック・ギタリストにも積極的にレパートリーとして取り上げられている。ブラジル人としての血を根底に持ち続けつつも、時にはシリアスに、そして時にはユーモアを交えながら、ジャンルにとらわれないジスモンティが作り出す音楽世界。彼のパフォーマンスを再び目にする機会が訪れることを切に願う。
コメント
貴兄の文章に絆されて、5~6枚購入しました。とっても好きな訳ではありませんが、時々、急に聞きたくなる音楽です。
妙に現代音楽風だなと思っていましたが、本日(2009年3月10日のNHK-FM 「ベスト・オブ・クラシック」にて、東京フィルとの共演が放送されました。冒頭で経歴紹介があったのですが、彼はブーレーズ門下だったのですね。どうりでピアソラより本格的です。
演奏はオーケストラと上手くマッチしていて、これはこれで良いと思える内容でした。
わたしは貴兄のブログで彼の存在を知ったのですが、多分必ずしもメジャーとは言えない音楽家とオーケストラとの共演。ホールも紀尾井町ホールと言うことで、赤字覚悟と推定される企画。貴兄以外にも、大ファンがいらっしゃると言うことですね。
Posted by: 持田耕己 | March 10, 2009 09:46 PM
>持田さん
いらっしゃいませ。
すっかり更新が滞っていますが書き込みありがとうございます。ジスモンチを聴いていただくようになったみたいで何よりです。
フランスではJean Barraqueの元で学んだということです。ジャンはピエール・ブーレーズとは同時代で初期はスタンスも近かったようですが、後に袂を分ったようです。
一昨年の単独公演は実に久しぶりでしたが、興行的にはよかったのでしょうか、昨年も再来日、それもオケとの共演(FMで放送したものです)以外にも、急遽ソロコンサートも組み込まれていました。
一昨年に行ったコンサート会場ではプレイヤーが非常に多かったのが印象的でした。確かに一般受けするものではないかもしれませんが、プレイヤーズ・プレイヤー的な評価が高いように思います。
Posted by: Ken | March 11, 2009 01:19 AM
NHKが間違えたか、わたしの聞き間違えか? でもJean Barraqueの名は聞いたことがないし。
外盤も扱うアマゾンではたくさん売っていますよね。本邦でも「全部買う」方がいらっしゃることが推定されます。
Posted by: 持田耕己 | March 11, 2009 09:40 AM
>持田さん
うちには15-6枚くらいあったでしょうか。
一時期、見かけたら即買うということが続いていました。
彼の作品はECMレーベルからリリースされているものと、CARMOレーベルのものとでは、かなりキャラクターが違っています。
Posted by: Ken | March 14, 2009 06:10 PM