●Pierre Bensusan: Musiques
久しぶりにギターソロのアルバム紹介となるが、前回のラルフ・タウナーはナイロン弦ギターがメインだったのに対し、こちらはスティール弦。このスタイルの音楽をどのジャンルに入れるかはいつも悩むところだが、アメリカなどではNew Ageにカテゴライズされるのが一般的だった。ニューエイジという言葉には少し抵抗があるが、とりあえず、ここでもそのカテゴリーに入れることにしよう。
ピエールはアルジェリア生まれのフランス人。ボブ・ディランの歌で英語を覚え、弾き語りを始めたという。その後、ジョン・レンボーン、バート・ヤンシュという素晴らしい二人のギタリストが在籍していた、伝説的なブリティッシュ・フォーク・ロックのグループ、「ペンタングル」に惹かれ、ケルト音楽などの影響も取り込んでいくようになる。
このアルバムは、今では彼のトレードマークといってよいDADGADと呼ぶ変則チューニングで、全編演奏されている。このチューニングは、アイリッシュやブリティッシュ・フォークなどのプレイヤーがよく用いており、独特の雰囲気を作り出すものだ。ただ、ピエールは、このチューニングの持つ古典的なイメージを超え、コンテンポラリーな曲想にもうまくフィットさせている。ライブで、比較的インプロビゼーション色の強い曲を演奏すると、ケルト音楽の影響に、アフリカのリズムがのったようなフレーズが見られる。彼のルーツを考えると、なるほどと納得できる。
ステージで自分の演奏、音を完璧にコントロールするピエールの姿から容易に想像できるが、アメリカのギター製作家に話を聞くと、多くの人が「ピエールは気難しいからなぁ」という。2001年に来日したとき、ライブ後に少し彼と話す機会があったが、気難しさなど感じさせぬ、実にフランクな人柄だった。もちろん、一緒に仕事をするとなると、別だろうが・・・。
2004年には、サンフランシスコを拠点に活動をしているブライアン・ゴアの呼びかけで、クラシック・ギタリスト兼作曲家のアンドリュー・ヨークなどを交えて、「インターナショナル・ギター・ナイト」と称したツアーをおこなっている。それぞれが、ユニークな演奏スタイルを持つテクニシャンぞろいだけに、面白い仕上がりとなっているようだ。ただ、ピエールはこの頃から、メインギターを変更しており、ライブ音源などはピックアップの音色が今ひとつの仕上がりなのが残念だ。
最新作も素晴らしい演奏だが、個人的には、以前のギターの音色の方がしっくりくるように感じてしまう。よい悪いではなく、あくまでも好みの問題ではあるが・・・。ただ、ひとつところにとどまらず、新しいスタイルにも挑戦し続けているピエールの今後からは、やはり目を離すことはできない。
コメント
アマゾンより、本日到着。
おそろしい音ですね。
個人的にはもう少しオフマイクの方が好きなのですが、スチール弦のカリカリ感は伝わってきます。
またしばらくかけ続けてみます。
Posted by: 純之助 | May 8, 2006 10:31 PM
>純之助さん
いらっしゃいませ。
さっそく入手していただいたのですね。ありがとうございます。
少し専門的な内容になりますが、ピエールが愛用しているギターは、トップがシダー(杉)でバックとサイドはマホガニーという材の構成になっています。この組み合わせでは、非常に音の立ち上がりを重視することになり、あまり複雑な倍音を響かせるものではありません。
ピエールのやりたかった音楽スタイルがこうだったということもあると思いますが、オフマイクでルーム・アコースティックの影響を受けるよりは、ダイレクト音を重視し、すべての音をコントロールすることを選んでいるのは、完ぺき主義者のピエールならではのような気がしています。
スティール弦ギターものは、どうしてもナイロン弦のものに比べると高次の倍音成分が強いのでキンとした感じは強くなります。このアルバムでのピエールの演奏は、パーカッシブな効果まで含めた特殊なスタイルともいえるでしょう。
もう少し、響きを重視したスティール弦ギターものもいずれ紹介するつもりでいますので、楽しみにしていてください。
Posted by: Ken | May 9, 2006 12:40 AM