●Fleetwood Mac: English Rose
Peter Green (g, key, ds)
Mick Fleetwood (ds)
John McVie (b)
Jeremy Spencer (g, vo)
Danny Kirwan (g, vo)
中学生の頃、土曜の晩は兄とトランプゲームをして過ごすことが多かった。看守と囚人が一晩中やっていたというジン・ラミーというゲームだったのだが、ラジオの「アメリカン・トップ40」という番組を聴きながらというのが常だった。
この番組は、その名の通りアメリカのヒットチャートの曲をどんどんかけるわけで、当時はフリートウッド・マックの『噂』というアルバムからのシングルカット曲などがチャートをにぎわせていた。スティービー・ニックスの甘く、とろけるようなボーカルがなかなか魅力的だったが、甘口のロック・ポップスという印象は否めなかった。
そんな印象が強かったので、ほとんどフリートウッド・マックを聴くことはなかったのだが、あるとき、サンタナの「ブラック・マジック・ウーマン」のオリジナルは、フリートウッド・マックで、当時在籍していたギタリストのピーター・グリーンが書いた曲だと聞いた。どうしても、スティービーの歌声とこの曲のイメージが結びつかなかったので、いずれちゃんと聞かなきゃと思いながら時間だけがどんどん過ぎていった。
結局、このアルバムを手にしたのは数年前なので、20ン年越しの出会いとなるのであるが、お目当ての曲のみならず、ブリティッシュのブルース・ロック・スタイルを代表するといってもいいような名演がいっぱいだ。今風の音作りからすると、密度も低く、音圧も高くないのだが、「音楽はこうでなくちゃ」とわくわくさせてくれるものがあるのだ。頭で考えて、どんどん作品として仕上げていくのではなく、演奏の場(レコーディングの場)に漂っていたであろうオーラがそのまま、聴くものにも伝わってくる。
そもそも、このバンドのルーツをたどれば、、ベーシストのジョン・マクヴィーはオリジナルメンバーだったジョン・メイオールのブルース・ブレイカーズと密接な関係がある。この伝説的なブリティッシュ・ブルース・ロックバンドのギターがエリック・クラプトンからピーター・グリーンへと、そして、ドラマーとしてミック・フリートウッドが加わり、この3人がジョン・メイオールと決別をしてフリートウッド・マックを結成する(ブルース・ブレイカーズのメンバー変遷は複雑で、どの時期に誰が誰と一緒だったのかなどの詳細については私は把握していない)のである。したがって、クリームやヤードバーズ、さらにはジミ・ヘンドリックスなどから音楽的な影響を受けたバンドであっても何ら不思議は無い。
ドラッグを多用していたピーターは、このアルバムを発表してまもなく、バンドを離れソロ活動をおこなうようになるが、目立った活躍をあげることなく、精神のバランスを崩していくようになってしまい、だんだんと表舞台での音楽活動をおこなえなくなっていく。ほとんど音楽界で、彼の音沙汰を聞くことがなかったが、どうやら最近、再び音楽活動を再開したといううわさも届いている。
一瞬の輝きをはなったブルース・ロックバンドとしてのフリートウッド・マックの頂点は、本作をおいてほかにはない。強烈なインパクトのジャケット写真にひるむことなく、このアルバムを手にして欲しい。