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May 19, 2006

●Hermeto Pascoal: Slaves Mass

HermetoPascoal_slaves.jpg

Hermeto Pascoal (p, key, g, ss, fl, vo)
Ron Carter (b)
Alphonso Jonson (b)
Airto Moreira (ds, per, vo)
Chester Thompson (ds)
Raul de Souza (tb, vo)
David Amaro (g)
Hugo Fattoruso (vo)
Laudir de Olivera (vo)

 いつの頃か、ブラジル音楽がとてもしっくりと合うようになって来た。ポルトガル語の柔らかい音感と、比較的抑揚を抑えて淡々と弾くナイロン弦ギターによる音楽は、とても心地よいものだ。同じブラジルでも、非常にスピード感にあふれ、ピンと張り詰めた緊張感を前面に出した音楽もある。以前、紹介したエグベルト・ジスモンティはその筆頭とも言ってよいが、もう一人、忘れてならないのが、このエルメート・パスコアールだ。

 今考えてみると、高校生の頃、東京田園調布の田園コロシアムでおこなわれていた「ライブ・アンダー・ザ・スカイ」というライブイベントは、その後の私の音楽との関わりを大きく左右するものだった。自分の聴いてきた音楽を振り返りながら文章を書いてみると、そのことを強く実感する。

 エルメートは1979年のライブ・アンダー・ザ・スカイに出演していた。ブラジリアン・ナイトと銘うち、ブラジルの歌姫エリス・レジーナとの共演である。当時の私は、チック・コリアやアル・ディ・メオラしか眼中に無く、「ブラジリアン・ナイト?! みんなでサンバ演奏かぁ。」と高をくくっていた。もちろんお金に余裕の無い高校生のこと、さして関心の無いコンサートに足を運ぶことなど無かった。今思うと、本作を発表して間もない時期だったので、脂の乗り切った時期の演奏だったに違いない。
 ライブのパンフレットでみたエルメートの写真は、怪しげな初老の巨体で、「奇才」という形容詞がピッタリの風貌だった。色素欠乏症のため、このとき40歳そこそこにもかかわらず年老いたように見えたのだったということを知ったのは、ずいぶん後になってからだった。

 マルチ・インストゥルメンタル・プレイヤーとして名高いエルメートは、本作でも鍵盤楽器、管楽器そしてギターとマルチぶりを存分に発揮している。あるときはアンサンブル全体がものすごいスピードで疾走し、混沌とした淵へと飛び込みそうになったり、また、ある時はフルートのみの演奏に声やパーカッションによる不思議な効果音がからんできたり、彼の楽曲の展開は、聴くものに息をもつかせぬほどのものだ。かといって、難解なフリーフォームへと突入するのではなく、メロディアスなフレーズも随所にちりばめられている。

最近になって、数年前に何度か来日をしていたことを知った。そのときの演奏も素晴らしいものだったそうだ。今年、70歳を迎えるエルメート。次に日本での演奏があるならば、見逃せないものになることは間違いない。

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