●Joyce: Feminina/Agua e Luz
音楽をジャンル分けすることに意味はほとんど無いのだが、どこの音楽が一番好きかといわれると、「ブラジル」と答えたくなる。知らないうちに耳に飛び込んできたボサノバなどを別にすれば、一番最初にブラジル出身プレイヤーの音楽として意識しながら聞いたのは、エウミール・デオダートの『ツラトゥストラはかく語りき』だった。おなじみのメロディを、とてもおしゃれなコードワークとリズムでまったく違うものに仕上がっていてとってもかっこよかったことを覚えている。その後、ボサノバを含めたギターものにもだんだんと自分から手を伸ばしていき、素晴らしいプレイヤーをどんどんと知るようになる。
ジョイスは、60年代終わり頃から活動を続けているブラジルの女性アーティストの中心人物の一人。本作は80年発表の『フェミニーナ』と81年発表の『水と光』のLP2枚を、1枚のCDに収録したもので、初期の代表的な作品。残念ながらパーソネル(参加ミュージシャン)はわからなかった。時にしっとりと、時に縦横無尽に駆け回るようなジョイスの歌とスキャットは、今聴いてもまったく色あせていない。
ジョイスの声は、透明感がありながら「ざらついた」テクスチャーを感じる。心地よくすっと入ってきて、すっと出て行くのではなく、ざらついた部分が自分の中に引っかかっていくような感じなのである。
90年代に入ると、ロンドンでのクラブシーンでジョイスの人気が再び高まり、日本のクラブなどでもさかんにこのアルバムの曲がかけられるようになった。ちょうどこの頃、来日したジョイスを見にブルーノート東京に出かけたことがあったが、観客には若い20代前半の人が目立っていたのにはビックリした。このときは、ギターにトニーニョ・オルタをひきつれてという豪華な布陣で、ステージ中央にスッと立ったジョイスはとてもかっこよかった。定番のナンバー「Samba de Gago」では、観客と一体となったスキャットで雰囲気は最高潮。日ごろクラブシーンにはほとんど関心を持っていないが、どんな形にせよ、いい音楽を知るきっかけとなるのであれば、それもまた良しという思いを強くした。