●Joni Mitchell: Blue
Joni Mitchell (vo, g, dulcimer, p)
Stephen Stills (b, g)
James Taylor (g)
Sneeky Pete (pedal-steel)
Russ Kunkel (ds)
ギターをかっこよく弾く女性シンガー・ソング・ライターの草分けといえば、ジョニ・ミッチェルをあげずにはいられない。もちろん、それ以前にもジョーン・バエズをはじめとする、女性フォーク・シンガーは大勢いた。それでも、ジョニのかっこよさが際立っているのは、彼女のギター演奏スタイルとも関係がある。
彼女が得意としていたのは、オープンチューニングを使ったもの。チューニングが一般のものとは違っているため、和音の響きが独特のものになる。ハイトーンの歌声に、ふわふわとした透明感のあるギターの音が絡み合っている心地よさ。
ジョニはカナダ生まれだが、東出身のシンガー・ソング・ライターは、結構ダルシマーを演奏する人が多い。以前取り上げたブルース・コバーンも弾いているし、女性ギター製作家として知られているリンダ・マンザーも、最初に作ったのはダルシマーのキットだったという。このマウンテン・ダルシマー(ハンマー・ダルシマーとは別の楽器)は別名アパラチアン・ダルシマーと呼ばれることもあることから、北米大陸東海岸のアパラチアン山脈地方では割合ポピュラーなものといえよう。
アパラチアン山脈は、英国・アイルランド系の移民が多く、アメリカのルーツ的な音楽の源となった地域である。楽器自体のルーツはドイツ等といわれているが、1940年代頃、ジーン・リッチーがダルシマーを演奏するようになり、その後のフォーク・リヴァイバルの波に乗って、ポピュラーなものとなっていったようだ。
日本では、なかなかお目にかかることは少ないが、われわれの世代では、「私は泣いています」のヒットで知られるリリィが『ダルシマー』というアルバムを出していて、その当時のライブで演奏していた記憶がある。
初期の傑作として名高い本作だが、デビュー当初からジュディ・コリンズやCSN&Yなどをはじめ、数多くの楽曲を提供していることから、ソング・ライティングの質の高さも際立っている。ウッドストック・ロック・フェスティバルにむけては、CSN&Yにそのものズバリ「ウッドストック」という曲まで書いている。この当時は、彼らと活動をともにしていることが多く、古いライブ映像では、ライブにコーラスとして参加している姿を見ることもできる。フェスティバルにも同行する予定があったが、直後に自分のコンサートが控えていて、予定通り戻ってこれるかどうかがわからなかったので一緒に行かなかったという話も耳にしたことがある。
シンプルなフォーク~ロックスタイルから、後にはジャコ・パストリアスなどをはじめとするジャズ・フュージョン界のトップ・プレイヤーとの共演など、新しい世界を広げつつも、その歌声とサウンドは、常にジョニらしさを感じさせるユニークなスタイルを貫いている。
2002年にはこれまでの集大成といえるセルフカバー集『Travelogue』を発表し、その後の目立った活動は停止している。ぜひとも、活動を再開して、今なお透明感を失っていない声と、素晴らしいギター演奏を披露してもらいたいものだ。