●John McLaughlin: Time Remembered
John McLaughlin (g)
Yan Maresz (b)
The Aighetta Quartet
Francois Szonyi (g)
Pascal Rabatti (g)
Alexandre Del Fa (g)
Philippe Loli (g)
マイルスのアルバムでも触れたビル・エバンスは、60年代以降のジャズ・ピアニストとしてはもっとも重要な人物の一人といえるだろう。したがって、さまざまな人たちに影響を与えていったわけであるが、ピアニストのみならず、ギタリストも彼のことをフェイヴァリット・プレイヤーとしてあげる人は多い。
ジョン・マクラフリンは60年代終わりにトニー・ウィリアムスのグループ、ライフタイムに参加すべくイギリスを離れニューヨークへと移り住む。そして、『ビッチェズ・ブリュー』をはじめとして、マイルスのアルバムにも数多く参加していった。その後、自身のグループ、マハヴィシュヌ・オーケストラを結成し、ハードコアなフュージョンの黎明期に大きな役割を果たしていった。さらには、インド音楽への傾倒を全面に出したシャクティでの演奏からは、アコースティック音楽を中心として、ラリー・コリエル、クリスチャン・エスクーデ、パコ・デ・ルシアやアル・ディメオラなどとの共演を重ねていった。
80年代終わりから90年代初頭になると、セッション的なアコースティック・ギター主体の演奏から、メンバーをほぼ固定してジョン独自のスタイルを確立したともいえるジョン・マクラフリン・トリオでの演奏がメインとなり、か図化すの素晴らしい演奏を残していった。そのトリオでの演奏が一段落した時期に、この作品が録音された。
ジャズを専門とする批評家などからは、ジョンに対する厳しい評価を聞くことが多い。マイルスのグループに参加していた前後は、エレクトリック・ジャズの主流に近いところにいたジョンのその後の道のりは、必ずしもジャズ信奉者からは好ましいものとは映っていなかったようなのである。そのジョンが、ジャズのメインストリームにドンと構えるビル・エバンスへのトリビュートとして楽曲集を出したことに違和感を感じているという内容の評論を目にしたこともある。
確かに「ジャズ」というカテゴリーの中でこのアルバムを聴くと物足りなさを感じることは否めない。しかし、このアルバムは純粋なジャズではないという地点からスタートすると、まったく違う評価を下すことができよう。ベース奏者としても参加しているヤン・マレッツは、ジョンの弟子でジュリアード音楽院の卒業生。つまり、クラシック音楽の基礎をしっかりと持つ人物である。彼が、今回のビルの曲のアレンジに重要な役割を果たしていった。エイグェッタ・クァルテットはクラシック・ギターのアンサンブルユニットであることからも、この作品の志向するものがはっきりとうかがい取れる。
緻密なアレンジ・構成をベースとしたアンサンブル演奏で、ビル・エバンスの持つ楽曲の繊細な対位法的手法を際立たせているのである。ジョンは、自分のソロパートではインプロヴィゼーションを展開しているが、決してジャズ・フュージョンのアルバムで見られるような自由奔放なラインではなく、カシッとした枠組みの中にきちんとおさまっているものとなっているのが面白い。
ギターのピンと張り詰めた音、極限まで計算しつくされたメロディと内声の動き。クラシック・ギターのファンにも十分訴えかける力があるジョンの演奏は素晴らしいのはもちろんだが、やはり、ビル・エバンスというアーティストの計り知れないポテンシャルを意識せずにはいられない。