●Tim Sparks: One String Leads to Another
アメリカにおいて、フィンガースタイルのギターソロ演奏では、毎年カンザス州ウィンフィールドで開かれるフィンガー・ピッキング・コンテストで優勝することが、最近は登竜門のようになっている。今回取り上げる、ティム・スパークスは1993年の優勝者。コンテストでは、チャイコフスキーの「くるみ割り人形」をギターソロにアレンジしたものを演奏し、後に、CDとしても(コンテストでの演奏ではなく、スタジオ録音のもの)発表した。
アメリカ東海岸のノースカロライナ生まれのティムは、もともとクラシック・ギターから勉強を始めたという。しかし、アートスクールを卒業する頃から、ジャズをはじめとするさまざまなジャンルの音楽に関心を示すようになる。彼の音楽の方向性を大きく変えたのは、地中海~東ヨーロッパ地域の音楽だろう。奨学金を得て、ポルトガルのファドやユダヤのクレズマーなどを吸収することで、複雑なポリリズム、独特のエスニックな音階を多用するスタイルが形作られていった。
本作では、一曲のみサポートのギターが入っているが、基本はギターソロ。彼自身のコメントによれば、「前作まではチャイコフスキーやバルトーク、バルカンのフォーク音楽、中東の音楽、ジャズ、ケルトそしてラテンの色が濃いものだった。しかし、今回の作品では、自分のルーツとも言える、ノースカロライナの音楽に戻ってきた」とある。確かに、(アメリカナイズされたわれわれ日本人にとっても)アメリカ的なわかりやすく、耳なじみの良い曲が並ぶ。しかし、地中海に面する国々の音楽の影響は、そこかしこに見え隠れするのが面白い。
ティムは、何度が来日している。2002年に中川イサト氏がハンガリーのギタリスト、シャンドラ・サボと一緒にティムを呼んだライブを見たが、同じギターソロ演奏ながら三人三様でとても面白く、楽しむことができた。ライブ後に、自分が製作したギターを試奏してもらい、コメントをもらったのだが、とても誠実に対応してもらったことを今でもよく覚えている。
ギターを評価してもらうと、概してアメリカ人はその楽器のいいところを捉えて、コメントしてくれ、ネガティブなことをいうことは滅多にない。こちらとしては、ほめてもらうよりは、いま自分の楽器に何が足りないかをプロのプレイヤーの視点から捉えてもらいたいという気持ちが強かったので、「あえて、ネガティブなことを指摘してもらえると、これから楽器をよくしていくための足がかりになるから」と無理を言って、いろいろアドバイスをしてもらった。ライブで自分が弾いていた楽器と私の楽器の両方をかわるがわる弾き、「こっちの楽器はこうだけれど、こちらはああだ」と一つ一つ丁寧にコメントをしてくれる。そのコメントはとても知的で、的確なものだった。彼の暖かい対応には、今でも感謝している。
一見複雑そうに感じる彼の音楽も、気がつけばメロディラインを口ずさむようになるほど耳に馴染んでいく。それは、メロディが歌っているからに他ならない。