●Ralph Towner: Time Line
やはりラルフ・タウナーはすごい、と再認識させられてしまった。ソロアルバムとしては、前作の『Anthem』以来、5年ぶりとなる本作を聴いて、そう思わずにはいられなかった。確実にラルフ・タウナーというアイデンティティを演奏から感じさせる一方、決して一つところにとどまっていないという凄さ。
海外からクラシック・ギタリストなどを招いてコンサートの企画をおこなっている知り合いと話す機会があったのだが、ラルフは比較的集客の難しいアーティストだということだった。確かに、ジャズというにはクラシックの要素が強く、かといって純粋なクラシックファンからはアドリブ的な要素に今ひとつなじみがないといわれるかもしれない。ジャンル分けというレッテルに気をとられてしまうと、本当に素晴らしいものを取り逃してしまうのだが・・・。
もともとはクラシック・ギターから入ったラルフは、1969年にニューヨークに移り住んで以降、ウェザー・リポートやゲイリー・バートンなどとの共演で、ジャズ的な要素を取り入れていった。このことが、彼の音楽を構築していく上でも大きなポイントかもしれない。もちろん、Oregonとしての活動ではワールド・ミュージックの要素を吸収していることは言うまでもない。ジャズ、クラシックそしてワールド・ミュージックを融合したものが、ラルフの音楽の根底にはある。
ECMレーベルということを考えると、録音の手法にもよる部分も大きいのかもしれないが、ラルフのギターの音は独特である。クラシックほど、ホールのルームアコースティックだけに依存するのでもなく、一般的なギターインストもののようにブース内で比較的デッドに録ってリバーブ処理をしているのでもない、独特の空間感が伝わってくる。音の芯がはっきりとしていながら、その周りにまとわりつくような残響音にもスッと溶け込んでいるといってもいいかもしれない。
前作は、ECMとしては定番のオスロにあるレインボー・スタジオでの録音だったのに対し、ウィーンでクラシック・ギターの勉強をしたラルフが、今回、同じオーストリアのサンクト・ゲロルド修道院で録音をおこなったのも、何かの思い入れがあったのだろうか。
以前取り上げた『Solo Concert』は実にエネルギッシュだったのに比べ、本作では幽玄な音のイメージは踏襲しつつも、力の抜けた柔らかい要素と、畳み掛けるような厳しいフレーズをとてもうまくブレンドしている。
Oregonとして活動開始から35年経ったという。その独自の音楽観を構築しつつ、常に前進し続けるその姿には圧倒される。透明感のあるギターが好きであれば、6曲目の「If」を聴くためだけに本作を手に入れても後悔しないと思う。