●Kristina Olsen: Live From Around the World
Kristina Olsen (vo, g, p)
Nina Gerber (g)
Ed Johnson (chorus)
Kim Scanlon (chorus)
Martin Pearson (chorus)
Al Petteway (g)
アメリカでギター製作の修行をしているときは、月曜から金曜までは工房で通常の作業、土曜日は楽器店でリペアの修行、日曜日は基本的に休みというパターンだった。日曜日には、工房で作業をしていることが多かったのだが、毎週のようにちょっと時間を作っては隣町のバークレーまで出かけていた。
UCバークレー校(ある年代以上の人にとっては、ダスティン・ホフマン主演の『卒業』という映画の舞台にもなった大学として記憶にとどまっているかもしれない)の近くは、今では死語となってしまったヒッピースタイルの人々がアメリカ全国から集まっていたりと、ごちゃごちゃとしていて、とても楽しい場所だった。
まず覗くのは、MOEという古本屋。まめに探していると、すでに絶版になっていたギター製作に関する書籍が見つかったりしたものだった。そしてお決まりのコースは、AMOEBAとRASPUTINという2軒のCD屋。いずれも中古盤の品揃えが豊富で、毎回1枚6ドル以下のもの限定で探しても、あっという間に欲しいものが見つかってしまうヤバイ場所だった。
お気に入りのアーティストのCDを探したのはもちろんのことだったが、雑誌や書籍(一番頼りにしていたのは、『All Music Guide』という本。最近では、Web版をいつも参考にしている。)をチェックしながら、アコースティック・ギターが聴きもののアーティストを探すのも楽しみの一つだった。クリスティーナ・オルセンもこうやって出会ったアーティストの一人だった。
このCDをかける前にまずビックリしたのはトラック数が24もあったこと。再生してみるとなぞは解けたのだが、ライブ演奏を集めたこのアルバムでは、曲間のMCにまでトラックナンバーをふっていたのであった。肝心の演奏はというと、比較的ブルース色の強いギターとパンチの効いたクリスティーナの歌声ではあったが、最初の印象では、自分の好みと必ずしもあっていたわけではなかったこともあり、あまりパッとした感じを受けなかった。
それでも、繰り返し聴いているうちにだんだんと良さが伝わってくるようになった。なんといってもMCが絶妙で、話の内容が次の曲へのうまい導入にもなっている。なるほど、これならばMCにトラックナンバーをふりたくなる気持ちも良くわかる。ほとんどは一人での弾き語りだが、数曲、ニナ・ガーバーを始め、素晴らしいサポート・プレイヤーをバックに演奏している。ギターもブルース色が確かに強いが、オールドスタイルのものというよりは、時折ジャズ・フレーバーのフレーズもちりばめられていて、なんとも心地よい。最初の印象などは、もうどこ吹く風である。
1957年生まれの彼女が最初のCDをリリースしたのは1992年。主にコーヒーハウスやフォーク・フェスティバルなどでの演奏活動をおこなっていたのであるが、キャリアの長さからすると遅咲きといってもいいだろう。
日本ではあまり知られていないが、シンプルなスタイルの素晴らしいシンガー・ソング・ライターがまだまだたくさんいる。これが音楽大国アメリカの底力なのかもしれない。