●Steps: Smokin' in the Pit
Mike Mainieri (vib)
Michael Brecker (ts)
Steve Gadd (ds)
Don Grolnick (p, key)
Eddie Gomez (b)
渡辺香津美(g)
残念なことに、昔からよく聴いていたプレイヤーの訃報を耳にすることがだんだんと多くなってきた。中には、「まさか、まだ若いのに」と思う人も少なくない。サックスのマイケル・ブレッカーもそんな一人だ。
昨年、骨髄異形成症候群という診断が下され、予定されていたSteps Ahead(Stepsというグループ名は使用できなくなったためのちにSteps Aheadと改名した)のツアーをすべてキャンセルして、闘病生活を送っていたというマイケル。白血病へと進行することの多い病気で、マイケルは骨髄移植による治療を試みようとしていたが、特殊な型だったせいもあり、家族を含めドナーが見つからなかった。そして、残念なことに今年の1月13日、ニューヨークで亡くなった。一部には快方に向かっているという情報も流れ、レコーディングもおこなっているという話もあっただけに、本当に残念だ。
私が音楽を聴くのに没頭していて、そして多感だった10代後半、アメリカを中心にジャズとロックを融合したようなフュージョンと呼ばれるスタイルの音楽が台頭してきた。そのとき、めきめきと頭角を現してきたのが、トランペットの兄ランディとテナー・サックスの弟マイケルの二人によるブレッカー・ブラザースであった。70年代後半から80年代初めにかけて、ニューヨークをベースにしているテクニシャンぞろいのプレイヤーたちと繰り広げるインタープレイは素晴らしいものがあった。当時、ラリー・コリエルに入れ込んでいたこともあり、彼とよく共演もしていたブレッカー・ブラザースの二人の演奏は、よく耳にすることになっていた。
さて、そこでStepsである。リーダー格のマイク・マイニエリの元に集まった凄腕ミュージシャンによるユニットだけに、きわめて質の高い演奏が繰り広げられることは容易に想像できよう。
実は、このSteps、ファーストと2枚目に当たるこのアルバムは、日本のみで当初は発売された。当時、フュージョンのプレイヤーにとっては聖地とも言える六本木のライブハウス、ピット・インでのこのライブでは、アルバム『トチカ』以来、マイクと親交の深かった渡辺香津美がゲストとして1曲参加している。とある雑誌に、当時を振り返って渡辺香津美がコメントしているのを見ると、プレイヤーたちにとってこのユニットがいかにすごいものであったかがわかる。
このときは久々に胃が痛くなった(笑)。・・・(中略)ニューヨークの
超第一線級のミュージシャンに交じって、マイニエリのバンドの
一員としてベスト・プレイをしなければいけない。何がびっくりし
たかって、早めに会場に行くとすでにマイケル・ブレッカーがい
て、バリバリ練習している。こんな上手い人がマイニエリのツ
アーでやるっていうので、必死にトレーニングをしている。すると
今度はエディ・ゴメスがやって来て、弓で1~2時間基礎練習をや
る。凄い人は準備も凄いんだよ。」
テクニックのあるプレイヤーたちが、とてつもなく高い緊張感を持って望むライブ。いかに凄かったかは想像して余りある。もちろん、ユニットとしてはマイク・マイニエリがキーパースンなのは間違いないが、決してでしゃばりすぎず、かといってしっかりとユニットの音楽性をさせえているという点で、ドン・グロルニクの存在が非常に重要のように感じる。
このアルバムはどの曲もお勧めだが、1曲を選べといわれれば迷わずラストのSara's Touchを上げたい。マイクが書いた名曲だが、マイケルのサックスの音が聴く人の心をがっしりと掴むスローナンバーである。
最後に少し話をマイケルに戻したい。70年代後半、フュージョンを代表するサックスプレイヤーとして評価が高かった一方、4ビートのスタンダードなジャズはダメだろうと厳しい意見をいう人たちがいたことも確かだった。しかし、そんな声を吹き飛ばすかのように、Stepsでかなりジャズよりの素晴らしい演奏を披露し、さらには、80年代に入ってしばらくした後、チック・コリアとともに素晴らしい4ビートジャズの演奏を繰り広げていくことになる。こちらもいずれ取り上げることにしよう。
サックスというとむせび泣くような情感たっぷりの音というイメージもあるが、マイケルは、決して感情に流されすぎることなく、常にクールな部分が残っていると感じさせるような演奏がとても印象的なプレイヤーだ。もちろん、ハードなブローもあるのだが、いわゆる泣きのフレーズなどは決して交えないのがとても潔い。
ストレートアヘッドな、メインストリームのジャズを別にすれば、コンテンポラリーなスタイルのジャズは昔で言えば、フュージョンと呼ばれていた音楽の要素を何らかの形で含んでいたり、少なくとも影響を受けているものが多いと思う。そういった点から、ステップスというグループは、フュージョンという音楽をジャズの一つのスタイルとして結びつけた立役者といってもよいだろう。そして、ジャズでの花形がサックスであるとすれば、このユニットの音楽でマイケルが果たした役割の大きさは決して過小評価されるべきものではないだろう。
息を引き取る2週間前にスタジオ入りをして遺作となるアルバムを完成させていたマイケル・ブレッカー。謹んで、彼のご冥福をお祈りしたい。
コメント
ステップスの、このアルバム!
LPで初めて聞いたときの衝撃を思い出します。ジャズの持っている“ユルイ”感じがまったくないハイテンションな演奏。その印象の源は、まずはエディ・ゴメスの音色とスティーブ・ガッドの乾いたノリでした。このリズムに同等に渡り合えるのは当時マイケル・ブレッカーしかいなかったでしょうね。
遠慮がちな雰囲気の香津美さんの音も、何度かステージをこなしているうちにこなれた音になっていました。
ドンもマイケルもなくなって、この音の再現は不可能になってしまいました。
最近、マイク・メイニエリは何をしてるのかな?
Posted by: Nozomi | February 15, 2007 01:05 AM
>Nozomiさん
いらっしゃいませ。
本当にテンションの高さが凄いですよね。ある意味、隙がなくて、聴くのにエネルギーがいるアルバムでもあります。
二人もメンバーがいなくなったので、再現するのは無理ですが、仮に今、同じメンバーで集まっても、もっと余裕のある演奏になるのかもしれませんね。
このときの演奏は、誰もがマージンをまったく残さず、持っているものをギリギリまで出してぶつけ合っているという感じを受けます。
Posted by: Ken | February 17, 2007 12:30 AM