●NEWS●

アメリカを代表するギター製作家Ervin Somogyi氏が、8年間以上の年月をかけてギター製作についてまとめた本を2009年7月に刊行することになりました。『The Responsive Guitar』『Making the Responsive Guitar』の2冊で、Somogyi氏のHPより購入が可能です。従来のハウツー本とは異なり、具体的な作業についての言及のみならず、ギターを製作する上で理解しておくべき原理原則などを平易な表現でまとめた本書は、他に類を見ないものとなっています。著者のコメントにも「次世代の製作家たちにとってバイブルのようなものとなるだろう」とあるように、ギター製作に関わる人にはぜひとも読んでもらいたい本です。なお本書は全編英語のみですのでご注意ください。
またSomogyi氏自身のナレーションによるプロモーションビデオがYouTubeに公開されていますのであわせてご覧ください。

Ken Oya Acoustic Guitarsの音は以下のCDでお聴きいただくことができます。

伊藤賢一さん
最新作『かざぐるま』ではModel-Jを、3rdアルバム『海流』ではModel-FとModel-Jにて演奏されております。

竹内いちろさん
1stアルバム『竹内いちろ』で全曲Model-F(12Fjoint仕様)を使っていただいております。

押尾コータローさん
2008/1/1リリースの『Nature Spirit』に収録されている「Christmas Rose」でModel-Jを弾いていただいています。

April 13, 2006

●Astor Piazzolla: The Rough Dancer and The Cyclical Night

AstorPiazzolla1.jpg

Astor Piazzolla (bandneon)
Fernando Suarez Paz (vln)
Pablo Zinger (p)
Paquito D'Rivera (as, cl)
Andy Gonzalez (b)
Rodolfo Alchourron (g)

  「20世紀を代表する音楽家は?」と聞かれると、真っ先に思い浮かぶのが作曲家・バンドネオン奏者のアストル・ピアソラだ。アルゼンチン・タンゴの異端者として本国ではなかなか評価されなかったピアソラだが、彼の楽曲はタンゴの枠にとどまらず、ポピュラー、クラシックなど幅広い分野のプレイヤーがカバーしていることから、そのすばらしさをうかがい知ることができる。  そもそもタンゴにおいて、音楽とは踊りのためのものであったのだが、ピアソラは従来のバンド編成(バンドネオン、ヴァイオリン、コントラバス、ピアノ)にエレキギターを加えた五重奏団で、踊りのための音楽という殻を破った、前衛的な演奏を繰り広げた。そのため、保守的な層からは、徹底的に批判を受けるが、彼が作り上げた独創的なモダン・タンゴの世界は唯一無二ともいえる。皮肉なことに、その独創性ゆえ、「ピアソラの先にアルゼンチン・タンゴの将来はない」と評されることもあるが、「アルゼンチン・タンゴ」という枠から見れば、あながち誤った指摘ともいえないだろう。

 本作は、『Tango: Zero Hour』、『La Camorra』と並ぶ、いわゆるピアソラ3部作の一つ。他の2作品の強烈な緊張感あふれる仕上がりと比較すると、比較的聞きやすい作品。バンドネオンを中心に強靭なリズムが刻まれ、躍動するヴァイオリンのメロディ展開がとても印象的だ。早いパッセージの後に、メランコリックなフレーズが続いたりするのも、「泣きの音楽」を好む日本人にはピッタリとも言える。

 ピアソラのすばらしさは、その音楽の展開から、色彩や、人間の心理描写をイメージさせる点にあると思う。一つ一つの独立した楽曲から伝わってくるというよりは、アルバム全体の流れがストーリー展開となって自分の中に入ってくる感覚は、他ではあまり経験したことがない。残念ながら、生の演奏を聴く機会はなかったが、映像を手に入れてじっくりと演奏を見てみたいアーティストの一人だ。

April 12, 2006

●Jeff Beck: Blow by Blow

JeffBeck1.jpg

Jeff Beck (g)
Max Middleton (key)
Phil Chenn (b)
Richard Balley (ds, per)

 僕にとっての最初のギターアイドルは間違いなくジェフ・ベックである。運命的な出会いとなったのが1975年発売のこのアルバム。当時は中学一年か二年だったはず。この頃は、アルバムのタイトルに邦題をつけることが多く、発売当初のアルバム名は『ギター殺人者の凱旋』というもの。「なんじゃ、こりゃ?」という感じだが、この邦題をつけたレコード会社の人がのちに語ったことによると、どんなタイトルにしようかと悩んでいるとき、たまたま目にしたジェフ・ベックのコンサート評で、彼の鬼気迫る演奏を「・・・まるでギター殺人者のようであった・・・」とあったのが頭に残り、このようなタイトルにしたとのこと。レコード盤を手にしながら、「ギター殺人者ってなんだろう??」と悩みつつも、人を殺すほど研ぎ澄まされた何かがあるように感じたものだった。

 今であれば、このアルバムはストレートなロックというよりはフュージョン系の音楽に入るかもしれないが、全曲インストという構成。冒頭のファンキーなカッティングに始まり、さまざまなエフェクターを駆使したギターの音作りには度肝を抜かれた。
 2曲目ではトーキングモジュレーターというエフェクターを使っている。これは、小さな箱に入れたスピーカーからギターの音を出し、その箱から出ているホースを口にくわえ、唄うように口の形を変えると、ギターの音と声が混ざったかのような効果が得られる(口がフィルターの効果を果たす)ものだ。お小遣いの少ない中学生には、何とかギターを手に入れることはできたとしても、エフェクターまで手が回るはずはなかった。それでも何とか音をまねてみたく、お菓子の缶に小さなスピーカーを入れ、ふたに開けた穴から太目の水道ホースをだすようにして、何とか格好だけは形にした。期待にわくわくしながらホースを口にくわえ、アンプのスイッチをオン。その気になってフレーズをひいてみたものの、かすかにギターの音が口の中で響くだけで、レコードの音とは大違い。結局、失意のまま、改造されたお菓子の缶は押入れの奥に追いやられることになった。
 うわさによると、このトーギングモジュレーターを多用すると、大音量が口の中で響くため、脳細胞が破壊されてバカになるという話がまことしやかに流れていたこともよく覚えている。もし、あの時自作したものがうまくいっていたら、若いうちに貴重な脳細胞を失っていたのかもしれないと思うと、失敗もよかったのかもしれない。

 このアルバムが出てしばらくすると、フュージョンブーム(当時はクロスオーバーと呼んでいた)がやってくるわけだが、ほとんどのフュージョンものがジャズプレイヤーがロックよりの演奏をしていたのに対し、ジェフはこのアルバムと、次作の『Wired』では、数少ないロックからジャズへと歩み寄ったすばらしい演奏の数々を残した。『Wired』ではマハビシュヌ・オーケストラのキーボード奏者だったヤン・ハマーのシンセサイザーが前面に出ていて双頭バンド的な色合いが濃くなるのに比べ、本作はもちろんギターがフューチャーされているが、それにも増してユニット全体のまとまりがすばらしく、音楽としての完成度の面ではジェフの最高傑作といっても過言ではないだろう。"ジェフのアルバムをまず一枚"というのであれば、まちがいなくこのアルバムをお勧めする。

 今でも、このアルバムの1曲目が流れると、どっとアドレナリンが噴出すのがおかしい。

April 11, 2006

●weblog開設

 毎日、工房でギターを製作しながら音楽を流しています。聴くものはどうしてもギターものに偏りがちですが、昔のものから比較的新しいものまで、そしてジャンルもポピュラー~ジャズ~クラシックと広い範囲にわたっています。
 せっかくいい音楽を毎日聴いているので、その中でも特にお勧めのものを少しずつ紹介していこうと思い、このweblogを立ち上げることにしました。気の向くまま書いていきますので、不定期更新かつ個人的な内容が多くなりがちですが、ご覧の方が「いい音楽」を探す上で、何かの手助けにでもなれば幸いです。



大屋 建
Ken Oya Acoustic Guitars