Jeff Beck (g)
Max Middleton (key)
Phil Chenn (b)
Richard Balley (ds, per)
僕にとっての最初のギターアイドルは間違いなくジェフ・ベックである。運命的な出会いとなったのが1975年発売のこのアルバム。当時は中学一年か二年だったはず。この頃は、アルバムのタイトルに邦題をつけることが多く、発売当初のアルバム名は『ギター殺人者の凱旋』というもの。「なんじゃ、こりゃ?」という感じだが、この邦題をつけたレコード会社の人がのちに語ったことによると、どんなタイトルにしようかと悩んでいるとき、たまたま目にしたジェフ・ベックのコンサート評で、彼の鬼気迫る演奏を「・・・まるでギター殺人者のようであった・・・」とあったのが頭に残り、このようなタイトルにしたとのこと。レコード盤を手にしながら、「ギター殺人者ってなんだろう??」と悩みつつも、人を殺すほど研ぎ澄まされた何かがあるように感じたものだった。
今であれば、このアルバムはストレートなロックというよりはフュージョン系の音楽に入るかもしれないが、全曲インストという構成。冒頭のファンキーなカッティングに始まり、さまざまなエフェクターを駆使したギターの音作りには度肝を抜かれた。
2曲目ではトーキングモジュレーターというエフェクターを使っている。これは、小さな箱に入れたスピーカーからギターの音を出し、その箱から出ているホースを口にくわえ、唄うように口の形を変えると、ギターの音と声が混ざったかのような効果が得られる(口がフィルターの効果を果たす)ものだ。お小遣いの少ない中学生には、何とかギターを手に入れることはできたとしても、エフェクターまで手が回るはずはなかった。それでも何とか音をまねてみたく、お菓子の缶に小さなスピーカーを入れ、ふたに開けた穴から太目の水道ホースをだすようにして、何とか格好だけは形にした。期待にわくわくしながらホースを口にくわえ、アンプのスイッチをオン。その気になってフレーズをひいてみたものの、かすかにギターの音が口の中で響くだけで、レコードの音とは大違い。結局、失意のまま、改造されたお菓子の缶は押入れの奥に追いやられることになった。
うわさによると、このトーギングモジュレーターを多用すると、大音量が口の中で響くため、脳細胞が破壊されてバカになるという話がまことしやかに流れていたこともよく覚えている。もし、あの時自作したものがうまくいっていたら、若いうちに貴重な脳細胞を失っていたのかもしれないと思うと、失敗もよかったのかもしれない。
このアルバムが出てしばらくすると、フュージョンブーム(当時はクロスオーバーと呼んでいた)がやってくるわけだが、ほとんどのフュージョンものがジャズプレイヤーがロックよりの演奏をしていたのに対し、ジェフはこのアルバムと、次作の『Wired』では、数少ないロックからジャズへと歩み寄ったすばらしい演奏の数々を残した。『Wired』ではマハビシュヌ・オーケストラのキーボード奏者だったヤン・ハマーのシンセサイザーが前面に出ていて双頭バンド的な色合いが濃くなるのに比べ、本作はもちろんギターがフューチャーされているが、それにも増してユニット全体のまとまりがすばらしく、音楽としての完成度の面ではジェフの最高傑作といっても過言ではないだろう。"ジェフのアルバムをまず一枚"というのであれば、まちがいなくこのアルバムをお勧めする。
今でも、このアルバムの1曲目が流れると、どっとアドレナリンが噴出すのがおかしい。