●NEWS●

アメリカを代表するギター製作家Ervin Somogyi氏が、8年間以上の年月をかけてギター製作についてまとめた本を2009年7月に刊行することになりました。『The Responsive Guitar』『Making the Responsive Guitar』の2冊で、Somogyi氏のHPより購入が可能です。従来のハウツー本とは異なり、具体的な作業についての言及のみならず、ギターを製作する上で理解しておくべき原理原則などを平易な表現でまとめた本書は、他に類を見ないものとなっています。著者のコメントにも「次世代の製作家たちにとってバイブルのようなものとなるだろう」とあるように、ギター製作に関わる人にはぜひとも読んでもらいたい本です。なお本書は全編英語のみですのでご注意ください。
またSomogyi氏自身のナレーションによるプロモーションビデオがYouTubeに公開されていますのであわせてご覧ください。

Ken Oya Acoustic Guitarsの音は以下のCDでお聴きいただくことができます。

伊藤賢一さん
最新作『かざぐるま』ではModel-Jを、3rdアルバム『海流』ではModel-FとModel-Jにて演奏されております。

竹内いちろさん
1stアルバム『竹内いちろ』で全曲Model-F(12Fjoint仕様)を使っていただいております。

押尾コータローさん
2008/1/1リリースの『Nature Spirit』に収録されている「Christmas Rose」でModel-Jを弾いていただいています。

May 16, 2006

●Noa & Gil Dor: Live

Noa_live.jpg

Noa (vo, g, per)
Gil Dor (g)

 イスラエルの歌姫、ノアは本名Achinoam Nini(アヒノーム・ニニ)、1969年テル・アビブ生まれ。生まれてまもなく、家族そろってニューヨークへと移住し、8歳頃から作曲活動を始めたという。その後、ハイスクール在学中に、生まれ故郷のイスラエルに戻り、音楽活動に本腰を入れていく。
 90年代に入り、本作でも競演をしているギタリストのGil Dorと出会ったのが、彼女にとっての大きなターニングポイントとなったようである。Pat Methenyと知り合ったギルはノアを彼に引き合わせ、当時パットが在籍してたGeffen Recordsから『Noa』をリリースするきっかけを作る。このアルバムは、パットと、パット・メセニー・グループ(PMG)の中心メンバーでもあるベーシストのスティーブ・ロドビーがプロデュースを行い、ライル・メイズも参加しており、PMGをバックにノアが歌うといった感じの仕上がりになっている。

 『Noa』は国際マーケットへと登場し、私も東京のCD専門店で"お薦め盤"として紹介されていたので、初めて目にしたわけである。当時は、かなりパット・メセニーに入れ込んでいたため、ノアという歌手よりもPMGメンバーの演奏に注目していたのだが、クリアーながらパワーもあるノアの声は惹きつけてやまないものがあった。

 その後も、お店でノアの名前を見つけるとなるべく手にするようになっていたが、ギタリストと二人での共演盤ということで、期待を膨らませつつ本作を購入した覚えがある。その期待を裏切ることなく、ギルのギターと、時折ギターやパーカッションも演奏するノアのボーカルというシンプルな構成ながら、伸びやかな歌声は魅力がいっぱいだ。突然ひずんだ音のギターで ジミ・ヘンドリックスのフレーズを弾くギルの遊び心にも思わずニヤリとさせられてしまう。ヘブライ語で歌われるオリジナル曲はもちろんのこと、ビートルズのナンバーやマドンナの曲なども、完全に自分のものにして、新しい姿に歌い上げている。

 日本盤が発売された95年以降、しばらくはノアの作品は簡単に入手できたが、残念なことに、本作を国内で入手するのは難しいようである。ちなみに本作は1991年の録音で、『Noa』よりも古い作品である。少し探してみると、ジャケットデザインは違うが同じ内容のアルバムがアメリカの通販サイトで入手できるみたいだ。2005年にはギルと弦楽四重奏の演奏をバックに歌ったコンサートのDVDも出ているようで、いずれチェックしてみたい。

 ノアに関する情報は、なかなか日本に入ってこないが、このアルバムのようなシンプルな編成でのライブをぜひとも見てみたいものだ。

May 11, 2006

●Charlie Mingus: Pithecanthropus Erectus

CharlieMingus_Pithecanthropus.jpg

Charlie Mingus (b)
Jackie McLean (as)
J. R. Monterose (ts)
Mal Waldron (p)
Willie Jones (ds)

 「怒れる黒人」というのが、全盛期のチャーリー・ミンガスのイメージだ。人種差別問題に対し、抗議の声をあげ、社会的なメッセージを含んだ曲を数多く作り、演奏をしてきた。ベーシストという性格もあるかもしれないが、ミンガスが目指したのは、集団即興演奏と呼ばれるグループ表現だった。アルバムのタイトルともなっている「Pithecanthropus Erectus(直立猿人)」では、この実験的な要素が、高いレベルで結実している。"進化"、"優越感"、"衰退"、"滅亡"と題された四部構成のこの曲は、たった5人で演奏しているとは思えぬ重量感にまず圧倒される。フリーフォームでそれぞれが勝手な方向に走り始めるかと思うと、破綻をきたす一歩手前で突然の調和が訪れる。その緊張感と安堵感の繰り返しこそが、ミンガスの強さをイメージ付けるものなのだろう。

 黒人のメッセージを世に発するジャズメンという点では、デューク・エリントンと対比されることも多いが、ミンガスの場合は、強烈な社会風刺と皮肉がこめられたメッセージとなって外に向うことが多かった。そのため、いろいろな面で敵も多かったという。さらに、大きな体から容易にイメージされるように腕っ節も強く、しょっちゅうバンドメンバーとも衝突をしていた。怒りながらピアノのふたをガチャンと閉め、ピアニストが危うく手を傷つけてしまいようになったり、トロンボーンプレイヤーの顔面を殴ったりと、その方面の話題には事欠かなかった。

 そんなミンガスもパーキンソン病を患い、晩年は大きな体を車椅子に沈めてすっかりと弱々しい姿となってしまった。最晩年には、当時のアメリカ大統領ジミー・カーターに声をかけられて、感極まって泣いている姿には、若き日の「怒れる巨人」の面影はまったく感じられなかった。しかし、このアルバムで地の底から響いてくるようなベースの音は、紛れも無いミンガスの力をわれわれに伝えるものだ。

May 09, 2006

●Alex de Grassi: Southern Exposure

AlexdeGrassi_southern.jpg

Alex de Grassi (g)

 スティール弦ギターでのインストゥルメンタル演奏をポピュラーにしたことに貢献したレーベルとしてWindham Hillをあげることに異論を唱える人は少ないだろう。1970年代半ばに、スタンフォード大学のあるパロ・アルトでWilliam Ackermanが立ち上げたレーベルは、ピアノのジョージ・ウィンストンを初めとする、アメリカのフォークの伝統を持ちつつ、ジャズやクラシックの要素を取り入れた良質な音楽を演奏する仲間たちの活動を、世の中に伝えていこうとすることがベースとなっていた。

 アレックス・デ・グラッシは同じベイエリアにある公立校の雄、カリフォルニア大学バークリー校(ちなみにスタンフォードは西海岸を代表する私学)で地理経済学を専攻していたが、卒業を間近に控えた時期、いとこのウィリアム・アッカーマンが立ち上げたウインダムヒル・レーベルからギター演奏による作品『Turning: Turning Back』をリリース。この作品が好評だったこともあり、彼はギタリストとして一本立ちしていくことになる。

 アメリカを代表するギター製作家、Ervin Somogyi(日本ではアーヴィン・ソモギと呼ばれているが、英語ではソモジという音の方が近い。但し、Ervinによれば、彼の母国であるハンガリーではショモジと発音するので、どちらにせよもともとの発音とは違うということだ)は、70年代後半からギター製作に本格的に打ち込み始めるが、スティール弦の個人製作家というのは、それまでに前例がほとんどなく、苦戦を強いられていた。
 そんな折、同じベイエリアでの新興音楽勢力ともいえるウィンダムヒル・レーベルが立ち上がり、ウィリアム・アッカーマンがアーヴィンのギターを使い始めるようになる。ウィンダムヒルのギタリストたちは、ウィリアムから「今までに無い、素晴らしい音のギターがある」と、アーヴィンのギターを紹介され、次々とレコーディングに使うようになっていった。

 アーヴィンにとっては、早い段階で、自分のギターを愛用してくれたアレックス・デ・グラッシとダニエル・ヘクト(彼は『Willow』というアルバム一枚だけを同レーベルからリリースしている。現在はギター演奏をおこなっておらず、作家として活動しているらしい)は、特に思い入れがあるようで、工房には80年代前半に二人がおこなったコンサートのポスターを飾っていた。もちろん、二人ともアーヴィンのギターを手にして写真に写っている。

 本作は、アレックスにとっては4枚目のアルバム。初期の作品に比べると、演奏スタイルも熟成されてきている。楽曲の構成はクラシックの雰囲気もあり、ヨーロッパ的な香りがするのも面白い。空間系のエフェクト(おそらくコーラスかハーモナイザーの類と思うが詳細は不明)を効果的に使っているので、音のバリエーションも楽しめる。ただ、ギターを作る側から言えば、生音の素晴らしいアーヴィンの楽器を使っているだけに、加工をしない音をもっと聞かせて欲しかったのは正直な気持ちだ。

 AlexdeGrassi_retrospective.jpg 残念なことに、本作は現在入手困難になっているようである。手に入りやすいものとしては、Windham Hillレーベルでのベストアルバム『A Windham Hill Retrospective』を変わりにあげておく。『Southern Exposure』を含む過去4作とウィンダムヒル・アーティストのライブ盤からの選曲で、アレックスのウィンダムヒルでの演奏を知るには最適であろう。
 いい作品が、コンスタントに入手できるような状況をぜひとも作ってもらいたいものだ。

 アレックスは現在もベイエリアをベースとして演奏活動をおこなっている。新しい作品もなかなか評判がいいようなので、機会を見て聴かなければと思っている。

May 08, 2006

●Paul Simon: Song Book

PaulSimon_songbook.jpg

Paul Simon (g, vo)

 サイモン&ガーファンクルを聴くようになったのは中学生の頃で、すでに解散してから数年たち、二人それぞれがソロアルバムを発表していた。解散に至る経緯なども含め、音楽界としても振り返る余裕ができたこともあってか、ラジオでかぜ耕士(当時、ニッポン放送の深夜番組「たむたむたいむ」の人気パーソナリティーだった)がナレーションで「サイモン&ガーファンクル・ストーリー」という連載番組(半年以上続いたように記憶している)を放送していた。その時代ごとの二人にまつわるエピソードを交えながら、当時の曲をかけるという番組だった。ポール・サイモンとアート・ガーファンクル、そしてプロデューサーのロイ・ハリーの間のずれがどのように生じていったのかなどについても触れていた。

 マイク・ニコルズ監督の『卒業』の音楽を全編担当することで、二人の評価はゆるぎないものになっていったが、その一方で、アートが一時的に音楽から離れ、役者としてマイクがメガホンを取った『キャッチ22』や『愛の狩人』へと出演することになったのは、なんとも皮肉にようにも思える。当時は、マイクやアートが映画へ移行しなければ、この素晴らしいデュオが解散には至らなかったのに、とずいぶんとアートに対して悪い印象を持ったものだ。

 さて、本作はS&G名義で活動を始めて間もない頃、ポールが一人で全編弾き語りでおこなった録音。ファーストアルバムが不振だったことに失望したポールはしばらくイギリスに渡り、しばらく書き溜めていた曲を一人でレコーディングする。ギター一本にボーカルというシンプルな構成は、取り上げている楽曲の影響も大きいが、ファーストアルバム『水曜の朝、午前3時』と通ずるものを強く感じさせる。美しいメロディにのせて淡々と、また、あるときは激しい口調の歌声は、強いメッセージ性を含むものである。

 ポールとアートの二人とはまったく別に、ファーストアルバムに収録されていた「サウンド・オヴ・サイレンス」にエレクトリック・ギターやドラムスをかぶせて編曲し、シングルリリースされたものが大ヒットとなったことはよく知られていることだが、失意の底にありながらポールが製作したアルバムとはまったく違うサウンド、当時流行しつつあったフォーク・ロックスタイルの編曲が世に受けたということは、なんとも皮肉である。

 本作は、長らくCD化されなかったが、2004年にようやくリリースされた。オリジナルのLPに対して、CDのジャケットでは写真が裏焼きになっているように使われている。ひょっとすると、オリジナルのものが裏焼きで使われていたのかもしれないが、アルバムタイトルの字体なども変更され、昔のカシッとしたデザインとはずいぶんと趣きが変わった。いずれにせよ、貴重な音源を再びCDで聴くことができるのは嬉しいことだ。

May 07, 2006

●John Abercrombie: Arcade

JohnAbercrombie_arch.jpg

John Abercrombie (g, e-mandolin)
Richie Beirach (p)
George Mraz (b)
Peter Donald (ds)

 長いことCD化を待ち望んでいたものが、ある時、突然リリースされることがある。そのため、時折CD通販サイトをチェックしなければと思っている。本作もそんなものの一つだ。ここでも何回か言及したECMレーベルの作品だが、考えてみると、初めて買ったECMのレコードがこれだった。

 ジョン・アバークロンビーは派手さは無いものの、玄人好みのギタリストといえるだろう。このアルバムはLPで発売されたときの邦題が『マジカル・フィンガー』。「驚異のテクニック」といったようなキャッチコピーがついていたように記憶している。ここで、再三書いているが、この類のコピーにはめっぽう弱かった高校生時代の私は、なけなしの小遣いをはたいて手に入れたのであった。確かにすごいテクニックではあった。ただ、あまりにも流暢に音が流れていくので、弾きまくるという印象はまったく感じなかった。それよりも、ディレイを多用するジョンのギターの音や、リッチー・バイラークのピアノ、そして時折アルコ奏法を交えたジョージ・ムラーツのベースは非常に透明感があり、ユニットのまとまりの素晴らしさが目立った。ドラムスのピーター・ドナルドはあまりよく知らないが、ルー・タバキンなどと演奏をしていたようである。ここでは、他の3人が作り出す音空間に溶け込むようなシンバル・ワークがとてもよい。

 不幸なことに、ECMのマンフレート・アイヒャーと、当時はこのレーベルで中心的な活動をしていたリッチーは、このアルバムをきっかけに、音楽面での確執が表面化し、しばらくして袂を分かつことになってしまう。アイヒャーにとって、この問題は思いのほか大きかったようで、ジョン名義でリッチーが参加した3枚のLPはECMのリストから抹消されてしまうという結末を迎える。その経緯を考えると、本作がCDとなって再び日の目を見るようになったことは、本当の驚くべきことであろう。

 ジョンの一聴するとつかみどころが無く、浮遊感の漂うギターと、ビル・エバンスの流れを汲み、リリカルでありながら、時折きらめくようなフレーズが輝いているリッチーのピアノが、素晴らしくマッチしている。ジャンは、この後にもマーク・ジョンソン、ピーター・アースキンとのレギュラートリオでも素晴らしい演奏を残しているが、音楽的な完成度の高さでは、本作が一押しだ。